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今回は、気象予報士の資格を持つサイエンスライターの今井明子さんにインタビューをさせていただきました。
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【経歴】
今井明子
サイエンスライター、気象予報士。編集プロダクションを経てフリーランスに。
科学系(おもに医療、地球科学、生物)のほか、育児、教育、働き方などの分野でも執筆。
2001年:京都大学農学部卒業後、酒造会社で商品ラベルや製品カタログ、会社案内の制作を手掛ける。
2002年:単身上京後、印刷会社に勤務し営業を行う。
2004年:編集プロダクション「株式会社ケイ・ライターズクラブ」に転職。編集者・ライターとして出版社や広告代理店から受注した単行本、雑誌、MOOK、フリーペーパー、WEB等の制作に携わる。
2012年:フリーの編集者・ライターとして活動開始。
2013年:気象予報士資格取得。
【実績】
・著書
「こちら、横浜国大『そらの研究室』! 天気と気象の特別授業」三笠書房知的生き方文庫(共著)
「異常気象と温暖化がわかる」技術評論社
「気象の図鑑」技術評論社(共著)
・Webサイト
東洋経済オンライン、Business Insider Japan、暦生活など
・雑誌
Newton、子供の科学、AERAなど
【Q&A】
ーそれでは、さっそくインタビューをさせていただきます。突然ですが、まず今井さんがライターになろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
今井さん:大学3回生の頃に「私、研究職向いてない!」とはっきりと自覚し、理系の進路に進むことをあきらめて学部卒で文系就職することに決めました。中高は演劇部、大学はフィギュアスケート部で、表現や舞台演出の経験は豊富だったので、クリエイティブ系の仕事を目指そうと思いました。
でも、就職氷河期ということもあり、付け焼刃の対策ではマスコミ就職は全く歯が立たなくて…。それで酒造会社の企画部に入って会社案内や商品パンフレット、商品パッケージ、プレスリリースを作ることになりました。そのうち、「どうやら私は人よりも文章が書けるようだぞ」ということに気づき、ライターを目指して上京したんです。
ー主にどんな分野で執筆されているのでしょうか。
今井さん:気象予報士の資格を活かして、気象現象の解説や天気予報の読み取り方、気象に関する研究の紹介などの記事を多数執筆しています。対象は科学雑誌、児童書、ママ向け情報サイトやビジネスマン向けニュースサイトまで幅広いです。気象に限らず、科学系のほかの分野でも執筆しています。
気象の次に多く担当する分野が医療で、その次は生物や環境ですね。医療は読者のニーズが圧倒的に多い分野なので、よく依頼が来ます。生物や環境の分野は大学で農学部だったこともあり、大学時代に学んだ知識が活きています。
ちなみに、サイエンスライターと名乗っていますが、物理や数学、機械系は苦手です。私に限らず、サイエンスライターは基本的に「科学全般」というよりも「科学」の中の狭い専門分野で活躍する人が多いので、当然ながら苦手な分野もあります。
―なぜ、サイエンスライターになろうと思ったのですか?
今井さん:編集プロダクション時代は旅行ガイドやペット本、育児書など本当に幅広い分野の編集・原稿執筆を行ってきました。ライターというのは文系出身の人が多く、病気や薬についての記事に苦手意識のある人が多いのですが、私は全く抵抗がないし、書いた記事を監修の先生に見ていただいてもあまり赤入れされませんでした。
それで、医療系の仕事が優先的に私に回ってくるようになり、場数をこなしていくうちに医療の知識が積みあがっていったんです。
独立したときに、「何か得意分野がないと仕事は来ないだろうな」と考えて、「それじゃ科学系の専門性を磨いてサイエンスライターになろう」と考えました。もともと文系就職したつもりだったのに、結局理系の仕事をしているのだから、人生何があるのかわからないものです。
―気象予報士の資格はなぜ取得されたのですか?
今井さん:「サイエンスライタ―です」と名乗るためには、何の専門なのかを示す必要があります。大学院の修士以上の学歴であれば、大学院での専門を売りにできるのですが、学部卒程度では専門知識があるとは言い難いです。
それで、ふと「気象予報士の資格を取ってみたら、その資格が専門知識のお墨付きになるんじゃないか」と思ったんです。
子どものころから自然が大好きで、中学生の時にはラジオの気象通報を聞くのも好きでした。農学部で気象学入門の講義を聞くのもワクワクしました。気象予報士資格もずっと気になっていたのですが、勉強や仕事で忙殺されていて試験勉強の時間を作ることができませんでした。
でも、独立して時間の融通がきくようになったのでチャレンジしてみようと思ったんですよ。
気象予報士と聞くと、テレビやラジオで天気予報を伝える気象キャスターを思い浮かべる人が多いと思います。でも、多くの気象予報士は気象とはまったく関係のない仕事をしています。私もあくまで本業はライターで、天気予報は行っていません。気象予報士資格取得のために得た知識を仕事に活かしています。
―気象予報士の資格を持つライターって珍しいですよね!
今井さん:そうですね。そもそも気象予報士自体が日本に1万人程度しかいないので、そのなかで書く仕事を専門にしている人は本当に少ないです。気象キャスターや気象の研究者、気象担当の報道記者、学校の先生などが気象に関する本や記事を書いていますが、その中で私の強みはというと、さまざまな媒体で取材して書くことについて長年経験を積んできており、それが本業であるということです。
編集者としてのスキルもあります。「気象現象をわかりやすく解説する」「気象についての研究や企業の取り組みを取材して伝える」ということについて、どちらかができる人は多いのですが、どちらもできる人は私以外にはほとんどいないのではないでしょうか。
逆に、私ができないこともあります。よく誤解されるのですが、気象予報士は勝手に天気予報をすると気象業務法違反になるんです。予報業務をするためにはさらに気象庁から許可を得ないといけないのですが、これが個人で活動する気象予報士にはハードルが高いのです。
ですから、「この冬は暖冬になりそうか予想してください」という依頼をいただいたら、私の場合は気象庁に取材したり、気象庁の長期予報を引用したりする形でしか解説できません。「あの気象キャスターはそういう原稿を書いているけど?」ともいわれるのですが、それはその気象キャスターの所属する会社が気象庁の許可を得て予報業務を行っているから可能なのです。
もうひとつ、気象庁は気象・地震・火山の3つを管轄していますが、気象予報士の網羅している分野は気象分野だけなので、地震と火山については専門外です。この分野の依頼がきたら、あらためて地震や火山の専門家に取材したうえで記事にしています。
―ライターとして気をつけていることは何かありますか?
今井さん:科学の分野は小難しくて、多くの人が第一印象で読むのをやめてしまいがちですよね。ですから、いかに興味を引くか、わかりやすく書くかが肝です。
わかりやすく書くため、私が普段意識しているのは、「その知識がなかったころの素朴な疑問を忘れない」「知識を得るときにつまずいたポイントと、どういうプロセスでそれが理解できたのかを覚えておく」ということですね。あとはなるべく身近な経験と紐づける。抽象的な話だけだと理解しにくいからです。
気象の分野は形容詞ひとつとっても厳密に気象庁で定義されているので、どうしても文章が「大型で非常に強い台風10号が日本列島に接近しています。中心付近の最大風速は…」みたいな型にはまったものになりがちなんです。でもそれって皆が普段から耳にしているので、文章にすると目が滑って読み飛ばしちゃうんですよ。
だから、いかにその定型文のリズムを崩して書くかが腕の見せ所ですね。あと、理系の文章はどうしても論文っぽくなりがちなので、論文っぽさを出さない工夫もしています。読んだら頭の中に風景が広がるような、五感に訴えかける文章を目指しています。
―ライターとしての仕事のクオリティを上げるために取り組んでいることを教えてください。
今井さん:何度でも推敲しますね。最初にわーっと粗いものを書き上げて、時間を半日~1日置いてクリアになった頭で読みなおし、わかりにくいこところは補足したり、順番を変えたりして書き直します。その工程を数回繰り返しています。
あとは、信頼できる根拠をあたること。これはサイエンスライターには欠かせないことです。特に医療系の分野は間違ったことを書くと人の命に係わることもあるので、慎重に資料を参照しながら書かなければいけません。
何が信頼できるのかは、ひとりではわからないものなので、その分野に詳しい人たち複数人とつながっておいたり、ときには勉強会に参加したりして普段から情報収集しています。
それとこれは仕事のためというより趣味なんですが、プライベートでは小説をたくさん読んでいますし、ドラマもたくさん見ています。実用書より物語が好きなんです。これも論文っぽくない書き方をするために間接的に役立っているかもしれません。
ーライター業のほか、防災出前講座や母親向けお天気教室、解説員などのお仕事もなさっていると伺いました。
今井さん:はい、そうなんです。これらは気象予報士仲間とのチームワークで行っています。一般の方の防災知識や気象リテラシーを高めることを目的とした活動なのですが、私にとってはたくさんのメリットがあります。
これらの活動では、お客さんたちが私たちに気象現象や天気予報に関する素朴な疑問をぶつけてくれます。そして、お客さんからはダイレクトな反応が返ってきます。
すると、「そうか、こういうことが知りたいんだな」「こう答えれば理解してくれるんだな」というのがその場ですぐわかるので、間接的にライター業にも役に立つんですよ。また、このような活動を通じてほかの知識豊富な気象予報士の方々と交流できるのもありがたいです。
ーありがとうございました! 最後に今後の意気込みなどお伺いできますか?
今井さん:気象予報士としては、「気象について詳しくなると、とっても豊かな生活を送れるよ」ということをさまざまな角度から発信していきたいです。空を眺めているだけで楽しいし、急な雨に降られて困ることも、原因のよくわからない頭痛に悩まされることも減ります。
そういう日々の快適さだけではなく、ビジネスにも役に立ちますし、災害が起きたときに命を守ることもできますからね。
「気象リテラシーを高めればこんなに役に立つ」ということがもっと浸透すれば、気象の専門家としての気象予報士の存在がもっと社会から必要とされていくはずです。「せっかく難しい資格を取ったのに仕事につながらない」という従来のイメージをなくしていきたいですね。
―今日は貴重なお話をありがとうございました。
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